新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活様式は変化を余儀なくされました。
ECサイトの需要は大きく伸び、家にいながら買い物をすることが当たり前になってきたのです。
その影響を大きく受けたのが運送業のドライバーです。
運送業界では人材不足が深刻な状態で、解決策を打ち出すも課題は山積しています。
そこでこの記事では、なぜこんなにもドライバーが不足してしまったのか、根本的な解決策はあるのかなどについて、元トラックドライバーの筆者がわかりやすく解説します。
目次
運送業のドライバー不足に関する現状を知る
運送業のトラックドライバーの不足がどの程度深刻なのか、データなどから現状を把握していきましょう。
運送業の求人倍率と欠員率
運送業の人手不足の現状について、令和2年に国土交通省が行った調査では、次のような内容が報告されています。
同じく、国土交通省が発表した「トラック運送業の現状等について」では次のように報告されています。
平成30年10月の貨物自動車運転手の有効求人倍率は2.79全職業の有効求人倍率は1.49
参照:トラック運送業の現状等について|国土交通省
全職業に比べると、貨物自動車運転手の有効求人倍率は実に2倍にもなります。
これは、運送業界のドライバー不足が顕著に表れている数字だといえるでしょう。
厚生労働省の調査では、運輸業・郵便業の欠員率が5.7%と報告されています。
医療・福祉業界の欠員率は2.5%、宿泊・飲食業界の欠員率は5.5%などとなっており、運輸業・郵便業がもっとも高い数字です。
少子高齢化は現場の高齢化にも直結し、他の業界や職種と比較して、運送業界の人手不足がどれだけ深刻かということがわかる結果が報告されています。
2024年問題への懸念
運送業界における2024年問題とは、時間外労働時間が年間960時間に制限される働き方改革法の適用によって、運送業界が受ける大きな影響のことです。
- 上限時間の遵守=罰則の制定
- 運送会社の売上・利益の減少=倒産
- 残業代の削減によるトラック運転手の収入減少=離職率アップ
などの問題が考えられています。
働き方改革法は、大企業が2019年4月・中小企業が2020年4月にすでに適用されていて、運送業に適用されるのは2024年4月。
運送業界は急な適用には対応できないと見なされたため、2019年から2024年までの5年間は猶予期間とされたのです。
年間960時間の時間外労働を超えた場合、運送会社に対しては罰則として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰⾦が課されることも定められています。
ドライバーの離職率がUPすれば、さらなる人材不足を招くことになるでしょう。
ECサイトの利用急増
コロナ禍におけるECサイトの利用増加で、宅配などの物量は確実に増えています。
国土交通省の調査では次のように報告されており、ここ数年で物量が増加していることは明らかです。
電子商取引(EC)市場は、2018年には全体で18.0兆円規模、物販系分野で9.3兆円規模まで拡大。EC市場規模の拡大に伴い、宅配便の取扱件数は5年間で約6.7億個(+18%)増加。
参考:物流を取り巻く動向について|国土交通省
宅配だけではなく、店舗への配送なども増加傾向にあるため、物量の増加は運送業界の人材不足を生み出す大きな原因になっているといえます。
運送業のドライバーが不足する原因を考察!
運送業のドライバーが深刻な人材不足の状態に陥っていることは、前項の数値を見ても明らかです。
なぜこのような状態になってしまったのか、元トラックドライバーの筆者が考えられる原因をご紹介します。
仕事のわりに給料が安い
仕事はキツいのに給料が安い……このアンバランスが人手不足を生んでいる大きな原因とも考えられます。
仕事はキツいけど稼げるのであれば、一定数の「稼ぎたい人間」が集まるでしょう。
しかし、キツいのに稼げないのは、求人をしても応募がこないという現状の一因です。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、令和2年(2020年)におけるトラック運転手の年間所得額は、次のように報告されています。
- 大型トラック:456万円
- 中・小型トラック:419万円
全産業の年間所得額は501万円です。この調査結果からもトラック運転手は決して賃金の高い職業とはいえません。
社会的な評価が低い
運送業の仕事に対する社会的評価の低さが人材不足を招いていることも考えられます。
- トラック運転手は誰でもできる
- トラック運転手は学歴がなくても働ける
- ブラック企業が多い
- トラック運転手は稼げない
以前『底辺の仕事ランキング』という記事が大炎上したのをご存知ですか?
その際にもトラック運転手はしっかりとランキングしていたのです。
実際に働いたことのない人間が、運送業界に持つネガティブなイメージや社会的評価の低さを痛感させられました。
社会的な評価が低い職業というレッテルを貼られてしまえば、トラックドライバーになりたいという人が減るのは仕方のないことです。
長時間労働があたりまえ
運送業界は、長時間労働も解決すべき課題として掲げられています。
車=トラックを運転する以上、渋滞・工事・事故・荷待ちなどで残業時間が多いのは当たり前のようにまかり通っていました。
しかし、運転手も人間です。
あまりにも多い残業や休日出勤などが続けば、心身の負担は想像を超えるものになります。
実際に体調を崩して業界を去った人間も多く、そういった人たちを間近で見ている場合は、運送業=長時間労働で負担が大きいという刷り込みをされてしまっている可能性もあるでしょう。
ネガティブなイメージが強い
トラックドライバーに対するネガティブなイメージが人材不足を招いていることも考えられます。
- トラックドライバーは柄が悪い
- トラックドライバーの仕事はきつくて大変
- ブラック企業が多い
- トラックドライバーは男性の仕事
- トラックドライバーは稼げない
実際にネットでは『トラックドライバー』と入力すると、『やばい』『きつい』などの検索ワードが上位にあります。
これは、実態を知らない人が何となく抱いているネガティブなイメージや、運送業界・トラックドライバーへの誤解が業界離れを起こしている原因だと考えられるでしょう。
ドライバーの高齢化
高齢化も、運送業界にとっては大きな問題となっています。
若手が増えないことで、トラックドライバーの平均年齢が上がってしまっているのです。
厚生労働省の調査では、トラックドライバーの40歳以上の比率は70%に及び、29歳までの若年層は9.1%にとどまっています。
若年層の全産業平均は16.3%であることを考えると、トラックドライバーの業界は高齢化の問題にも直面していることが一目瞭然です。
このまま若年層の割合が増えなかった場合、定年退職でベテランドライバーたちが業界を去っていくことを考えると、より一層深刻な人材不足の状態になることは想像に難くありません。
このまま運送業のドライバーが不足したらどうなる?
運送業のドライバーは、エッセンシャルワーカーとして社会生活を支える役割を担っています。
このまま運送業のドライバーが不足した場合、どのようなデメリットが考えられるのでしょうか?
荷物が届かない
運送業のドライバーが圧倒的に不足してくると、今まで当たり前に届いていた荷物が届かなくなります。
日時指定をしても時間通りに来ない・配送に時間がかかるなどだけではなく、配送のシステムそのものが機能しなくなる可能性が出てくるでしょう。
現在当たり前になっていることが、当たり前ではなくなります。
私たちの生活に大きな影響が及ぶことは避けられません。
買い物に行っても商品がない
スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストアやディスカウントストアなど、私たちの生活を支えている販売拠点に、荷物が届かなくなることも考えられます。
販売拠点にはメーカーなどからの製品がトラックドライバーを通して運ばれるので、運ぶ人がいなければいくらメーカーが商品を製造しても、ユーザーである私たちのところへは届きません。
買い物に行ったのに商品がない…という事態になることは、容易に想像することができます。
物流センターのパンク
各販売拠点へ運ぶ荷物が保管される物流センターがパンクする可能性もあります。
物流センターへの搬入すら厳しくなることも考えられますが、トラックドライバーがいなければ販売拠点へ配送することができません。
品質の保証も難しくなるでしょうし、生鮮食品など温度管理が必要な商品などは売り物にならなくなることもあるでしょう。
物流が停滞してしまうことで、消費者だけではなく生産者にも大きなダメージが与えられることになります。
どうしたら運送業のドライバー不足を解消できるのか
社会的生活の基盤を支える運送業のドライバー不足は、業界だけではなく国全体の大きな問題となります。
どうしたらドライバー不足を解消できるのか、5つの解決策をご紹介しましょう。
労働環境や条件の改善
運送業界のドライバー不足の解決策として、雇用側が労働環境や条件の改善を検討する必要があります。
従業員の定着率を上げ離職率を低くするためには、働きやすい環境づくりは欠かせない企業努力の一つです。
- 労働時間が長い
- 休みが少ない
- 給与が低い
など、運送業界のネガティブな要素を改善し、業界のイメージを変えることは、幅広い人材の確保に貢献します。
特に、給与の面は、大きな課題です。
以前は多少仕事がキツくても、それに見合った収入があれば良しとされ、運送業界は人気のある職種の一つでした。
学歴や年齢、性別に関係なく挑戦できる仕事というイメージが強かったのです。
労働基準法の改正で、以前のような無茶な働き方はできなくなりましたが、これだけ市場が活発化している現在なら、基本給の改定などにも着手する必要があります。
運送業界のイメージアップ
運送業界やトラックドライバーには、ネガティブなイメージを持っている人が少なくありません。
3Kのような『仕事が大変』というイメージが改善されなければ、若年層や女性の働き手は確保できないでしょう。
運送業界は、社会生活の基盤を支える重要な仕事です。
しかし、ドライバーの長時間労働によるストレスからくる無謀運転や、運転マナーの悪さなどが問題視され、ニュースなどで報道されることにより、業界全体のイメージが悪くなってしまうことも考えられます。
『運送業の仕事はきつい』『長時間の残業を強いられる』などのマイナスイメージを払拭するためには、業界全体で問題に取り組んでいかなければなりません。
従業員の満足度を向上させること、悪質なブラック企業を排除する自浄作用を持つことで、業界イメージは少しずつ改善されていくはずです。
若年層・女性の人材確保
運送業界の人手不足解消には、幅広い人材の採用が必要となります。
特にトラックドライバーは男性の仕事というイメージが強いからです。
女性やシルバー世代でも、活躍できる場面はたくさんあります。
特に、高齢化社会を迎えるこれからの日本にとって、シルバー世代の活躍は大きなポイントです。
高齢者でも経験者であれば、即戦力として働くことが可能になりますし、若手の未経験者でも今までの職歴を活かした働き方ができるはずです。
また女性の社会進出が目覚ましい現在、女性の働き手は企業にとって大きな戦力になります。
運送業界=男性社会という固定概念を払拭し、幅広い人材の活用を検討することが必要だと考えます。
運送会社の経営改善
運送会社の経営改善も人材不足問題を解決する方法の一つです。
公益社団法人全日本トラック協会が平成30年に発表した『トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン』には、次の4つの項目が挙げられています。
- 労働生産性の向上
- 運送業者の経営改善
- 適正取引の推進
- 多様な人材の確保・育成
中でも、運送会社として取り組むべき事項として、次の2つは喫緊の課題とされています。
- ドライバーの処遇改善
- 経営基盤の強化
経営基盤を強化し、コンプライアンス経営を行うよう指示が出されていますが、難しい問題として取り組みがなかなか行われていないのが現状です。
働きやすい環境を整備することで離職率を下げ、人材確保を行う必要があります。
柔軟な労働条件の設定
運送業界に足りないのは、柔軟な労働環境の設定です。
筆者の現役時代は、アルバイトやパートの運転手は数えるほどしかいませんでした。
それも繁忙期だけにお願いする程度……収入面では保障がないのと同然でした。
コロナ禍で急速に進んだ働き方改革を『自分達の業界とは関係ない』と思わずに、短時間勤務やシフト制の導入など、柔軟な労働条件で新しい人材を確保するべきです。
運送業界は、どうしても1人のドライバーに対して100の成果を求めます。
100の成果を得るために、1人ではなく何人でもOKという意識改革をしなければ、人材不足の解消は難しいといえるでしょう。
まとめ
運送業界のドライバー不足は深刻な状況ですが、国を挙げての施策なども行われ、改善する可能性はゼロではありません。
しかし、これから訪れる2024年問題など課題は山積しています。
労働環境や条件の改善などは、企業努力なくしては実現しないものです。
運送業界全体で取り組み、離職率を下げ、新しい人材の確保と育成を行っていく必要があるでしょう。
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