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運送業の人手不足・現状と動向
運送業の人手不足の問題は、長年運転手の長時間労働という視点で課題として掲げられていました。コロナ禍における社会の変化によって、さらに人手不足も加速しています。運送業における人手不足の現状と、現場の人手不足感について紹介しましょう。
運送業の求人倍率と欠員率
運送業の人手不足の現状について、令和2年に国土交通省が行った調査では、次のような内容が報告されています。
- 少子高齢化が急速に進行しており、2065年には総人口の約40%が65歳以上になる見通しであり、生産年齢人口は2020年比約2,600万人減となる見通し。
- トラックドライバーの年齢構成は、我が国の年齢階級別労働力人口の変化に比べ、29歳以下の比率が少ない。
- トラックドライバーは全産業平均以上のペースで高齢化が進んでおり、高齢層の退職等を契機として今後更に労働力不足が深刻化する恐れがある。
- 道路貨物運送事業における人手が不足していると感じている企業の割合は、平均で70%にも及ぶ。
同じく、国土交通省が発表した「トラック運送業の現状等について」では次のように報告されています。
- 平成30年10月の貨物自動車運転手の有効求人倍率は2.79
- 全職業の有効求人倍率は1.49
全職業に比べると、貨物自動車運転手の有効求人倍率は実に2倍にもなります。これは、運転手の人材不足が顕著に表れている数字だといえるでしょう。
また、生労働省の調査では、運輸業・郵便業の欠員率が5.7%と報告されています。医療・福祉業界の欠員率は2.5%、宿泊・飲食業界の欠員率は5.5%などとなっており、運輸業・郵便業がもっとも高い数字です。
少子高齢化は現場の高齢化にも直結し、他の業界や職種と比較して、運送業界の人手不足がどれだけ深刻かということがわかる結果が報告されています。
現場の人手不足感
筆者は元トラック運転手です。筆者の元同僚たちは、現場で運転手としてバリバリ働いています。彼らに現場の人手不足をどうとらえているのか、人手不足感について聞いてみました。
とにかく忙しい。オーバーした分はきっちり払ってもらってるから文句は言わないけど、コロナになってから配達の量は2倍近くに増えている。台数を増やして対応したいけど、求人を掲載しても応募がほとんどない状態。収入的には増えた人が多い。それでも忙しすぎるから、辞めていく人もいる。(軽貨物運送業)
休みがない週があります。平日の配送だけでは間に合わないので、自分のコースで余剰分が出たときは土曜日に配送することもあって、時間は短いけど休みが潰れちゃうのでちょっとツラいです。休日手当や残業代が増えるのは嬉しいけど、忙しさが一時的ではない感じがして、先が見えないからちょっと怖いです。(ホームセンターの店舗配送)
持っていく荷物がものすごく増えた。走る距離は変わらないけど、積み込みや荷降ろしがすごく大変になったっていう実感がある。とにかく人が足りないって言うのは運管が常に言ってるけど、確かにもっと人がいれば一人ひとりの負担は減るんだろうなって思う。帰りも空荷で帰ってくることはほとんどなくなった。集荷してこいって言われる確率がものすごく上がったなあとみんなで話している。(長距離ドライバー)
人が足りないね(笑)物量がすごく増えてる。1店舗ごとの物量は少しずつ増えてるだけでも、それが何十店舗になれば相当な量でしょ。以前はコースを分けるなんてあんまりなかったんだけど。一度センターに帰って積み残しをもう一度配送することもあるし、どうしちゃったんだって言う感じ。トラックの台数増やせば良いんだろうけど、求人かけても来ないって人事の人が嘆いてたよ。(コンビニ配送)
現役運転手の誰もが口を揃えていたのが、「求人を募集しても来ない」「トラックの台数が増えない限り負担は減らない」ということでした。
荷物の量が増えているのに、分母となるトラックの台数が変わらなければ、運転手への負担が大きくなることは明白です。これからやってくる2024年問題も現場ではかなり杞憂されているらしく、今の状態で残業時間を制限されたら仕事が回らなくなると会社の幹部は頭を抱えている様子も伝わってきました。
運送業が人手不足になる原因
社会基盤を支えるエッセンシャルワーカーの運送業が、なぜ人手不足に悩むようになってしまったのでしょうか?考えられる原因を5つピックアップして解説します。
少子高齢化による労働人口の減少
運送業だけではなく日本の国全体の問題となっている少子高齢化。少子高齢化は運送業界にとっても人手不足の原因となっています。
業界を支える若年層の働き手が増えないことで、運送業界全体の平均年齢が上がってしまっているのです。厚生労働省の調査では次のように報告されています。
- トラックドライバーの40歳以上の比率は70%
- 29歳までの若年層は9.1%
- 若年層の全産業平均は16.3%
調査結果からは、高齢化の問題に直面していることが一目瞭然です。2065年には総人口の約40%が65歳以上になるといわれています。超高齢化社会を迎えるにあたって、若い人材の確保はますます厳しくなるでしょう。
長時間労働による負担
運送業界は、長時間労働も解決すべき課題として掲げられています。車=トラックを運転する以上、渋滞・工事・事故・荷待ちなどで残業時間が多いのは当たり前のようにまかり通っていました。
しかし、運転手も人間です。あまりにも多い残業や休日出勤などが続けば、心身の負担は想像を超えるものになります。
実際に体調を崩して業界を去った人間も多く、そういった人たちを間近で見ている場合は、運送業=長時間労働で負担が大きいという刷り込みをされてしまっている可能性もあるでしょう。
仕事内容と賃金のアンバランス
仕事はキツいのに賃金が安い……このアンバランスが人手不足を生んでいる大きな原因とも考えられます。仕事はキツいけど稼げるのであれば、一定数の「稼ぎたい人間」が集まるでしょう。
しかし、キツいのに稼げないのは、求人をしても応募がこないという現状の一因です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、令和2年(2020年)におけるトラック運転手の年間所得額は、次のように報告されています。
- 大型トラック:456万円
- 中・小型トラック:419万円
全産業の年間所得額は501万円です。この調査結果からもトラック運転手は決して賃金の高い職業とはいえません。
ネガティブなイメージの先行
運送業界は、ネガティブなイメージが先行している現実もあります。
- 給料が安い
- ブラック企業が多い
- 仕事がキツい
- 3K
運送業に関しては、業界へのネガティブなイメージが先行して、若年層の求職者が減少している傾向があります。
筆者が勤務していた頃は、若い世代で「給料が安くても車が好きだから」「トラックに乗るのが夢だったから」という人たちが多くいました。好きなことを仕事にできるという価値観で、働いている人たちも一定数いたのです。
近年では、若者の車離れも深刻になり、運送業界への就職動機も薄くなったことで、車を使った仕事に就こうと考える機会も少なくなっているのでしょう。
社会的評価の低さ
運送業の仕事に対する社会的評価の低さが人材不足を招いていることも考えられます。
- トラック運転手は誰でもできる
- トラック運転手は学歴がなくても働ける
- ブラック企業が多い
- トラック運転手は稼げない
以前、「底辺の仕事ランキング」という記事が大炎上しました。その際にもトラック運転手はランキングしていたのです。実際に働いたことのない人間が運送業界に持つイメージや社会的評価の低さを痛感させられました。
運送業の人手不足を解消するために必要な対策
ここまで深刻化している運送業界の人手不足をどうしたら解消できるのでしょうか?これからやってくる2024年問題にも合わせて、早急な対応が求められます。
人材の確保と育成
新しい人材を確保し、育成することは人手不足解消にとって一番の近道といえます。若い世代が減少していくことがわかっている中で、女性や高齢者、外国人労働者などの確保がポイントでしょう。
国土交通省は2014年から「トラガール促進プロジェクト」を展開し、女性の人材の確保や育成に取り組んでいます。
ちなみにトラックドライバーの女性比率は2.3%とまだまだ低い状況です。屈強な男性の仕事という固定観念を脱却し、さまざまな人材が活躍できる業界を目指す必要があります。
労働環境・条件の改善
運送業界の課題の一つとして、労働環境や条件の改善が挙げられます。国が行っている施策では運送業の過酷な労働環境を改善し、魅力のある職場づくりを行おうという動きもあります。
- 労働基準法の改正(拘束時間・休息期間の定義徹底など)
- 時間外労働への罰則金(36協定)
長時間労働の実態を把握した上で法律を改正し、罰則を設けることで過重労働を防ぐ施策を展開しているのです。現役運転手も含む業界全体の労働環境や条件の改善ができない限り、人材不足の問題は解決しないでしょう。
運送業界全体のイメージアップ
運送業界のマイナスイメージはなかなか払拭できないのが現実です。運送業界全体のイメージアップは人手不足解消における急務といえます。
ちなみに、インターネットの検索で「トラック運転手」と検索ワードを打ち込むと、
- やめとけ
- 過酷
- きつい
- 給料安い
- 底辺
など、マイナスなワードがピックアップされています。これは一般的にトラック運転手=運送業界のイメージが悪いことの象徴でしょう。
実際に働いている人たちのやりがいや仕事の魅力、メリットなどを広く発信し、「そんなに悪い仕事じゃない」ということを周知しなければいけません。
従業員のエンゲージメント向上
従業員のエンゲージメント向上も、人手不足の解消には有効です。運送業界は他の業界に比べて転職へのハードルが低い傾向があります。資格や免許を持っていて、条件が良い会社があればどんどん転職をする……そのため業界全体が転職に対しての意識が高いのです。
しかし、流出してしまう人材をそのまま見過ごしていると、運送会社の人手不足は加速する一方です。労働環境や条件の改善・福利厚生制度の充実などを実施し、所属する従業員のエンゲージメントを向上させることで、離職を防ぐことが可能になります。
従業員のエンゲージメント向上で得られる効果は絶大です。
- 離職率が低下する
- 人材が定着しやすくなる
- 従業員の仕事の質が向上する
- 業績アップにつながる
- 企業の評判が上がる
- 人材が集まりやすくなる
働き方改革では魅力のある職場づくりが提唱されています。少しでも現在の従業員が働きやすい環境を整えることが大切なのです。
柔軟な労働条件の設定
運送業界に足りないのは、柔軟な労働環境の設定です。筆者の知る限り、アルバイトやパートの運転手は数えるほどしかいませんでした。
それも繁忙期だけにお願いする程度……収入面では保障がないのと同然でした。コロナ禍で急速に進んだ働き方改革を「自分達の業界とは関係ない」とせず、短時間勤務やシフト制の導入など、柔軟な労働条件で新しい人材を確保するべきなのです。
運送業界は、どうしても1人の従業員に対して100の成果を求めます。100の成果を得るために、1人ではなく何人でもOKという意識改革をしなければ、人材不足の解消は難しいといえるでしょう。
運送業の人手不足を解消したい!現役運転手たちの声
現場の運転手たちは、人手不足による負担増で大変な思いをしています。実際に働いている彼らは、現場の人手不足解消についてどんな思いを抱いているのか、生の声を紹介しましょう。
労働環境の改善は必須
【長距離ドライバーの声】
「労働環境の改善は必須だと思います。仕事がキツいのに給料が安いっていうのは、従業員にとって良くない要素だから。運送会社はなんとなく悪しき習慣がはびこっている感じがする。時代は変わっているんだし、少しでも若い世代を取り込みたいのなら、労働環境を根本から変えるぐらいの気で行かないとダメだと思う。」
女性や若年層の取り込みに必要なのはイメージ
【ルート配送ドライバーの声】
「最近うちの会社は半日だけのパートさんとか土日祝日だけのアルバイトさんが来るようになった。365日休みがないうちみたいな仕事は、少しでも働ける人を確保しなきゃダメだからだと思う。パートさんは女性が多いんだけど、働いてみて思っていたイメージとは違うっていう人がいるんだよね。やっぱり運送業っていうイメージが悪くて、働けるのに働かない人もいるんだと思う。」
自然淘汰されるべきブラック企業
【軽貨物ドライバーの声】
「ブラック企業が多すぎるよ。国はもっと監督すべきだし、従業員が気軽に声を上げられるシステムを構築して欲しい。特に地方はひどいと思うよ。未だにこんな会社あるんだって思うような会社が幅を利かせてる。もっと淘汰されなくちゃいけないし、自浄作用なんかないんだから、強制力のある法律とかを作ってほしい。そうしない限り運送業の悪いイメージは消えないし、人手不足は解消しないよ。」
まとめ
運送業界の人材不足は深刻な状況ですが、国を挙げての施策なども行われ、改善する可能性はゼロではありません。
しかし、これから訪れる2024年問題など課題は山積しています。労働環境や条件の改善などは、企業努力なくしては実現しないものです。運送業界全体で取り組み、離職率を下げ、新しい人材の確保と育成を行っていく必要があるでしょう。
運送業の仕事には、さまざまな職種があり、選択肢がたくさんあります。運送業への転職を検討されている方は、より良い転職につなげるために、ぜひ当サイト「ドライバーコネクト」にご相談ください。きっと自分に合った長く続けられる仕事が見つかるはずです。