【2022】トラック運転手の事故は多い?自腹・自己負担?事故後はクビになる?

一般の人よりも運転している時間が圧倒的に長いトラック運転手。運転している時間・走行距離が多いということは、事故に遭う確率も高くなります。

ニュースなどで報道されることも多いことから、トラック運転手は事故を起こすことが多いというイメージが根強くありますが、本当にそうなのでしょうか?今回は、トラック運転手の関わる事故の現状と事故を起こす原因や対策について、元トラックドライバーの筆者が詳しく解説します。

トラック運転手の事故の現状

トラック運転手の事故が多いのかどうか、イメージを先行させる前に、現状をきちんと把握することが大切です。統計の数字などを見ていきましょう。

2020年の労働災害発生状況

警察庁が2022年2月末に発表した交通事故統計では、次のような結果が発表されています。

当事者別死亡事故件数の推移

種別2019年2020年2021年2022年
大型貨物2025199
中型貨物15181115
準中型999
普通貨物10823
軽貨物1103

参考:交通事故統計月報(令和4年2月末)|警察庁

また、全日本トラック協会の分析では、次のように報告されています。

  • 死亡事故件数は減少している
  • 車籍地以外での事故が54.1%
  • 一般道路での事故が全体の80~90%を占める
  • 死亡事故の多い車両は大型で、全体の50~60%を占める
  • 車両同士の事故が全体の50~60%を占める

死亡事故件数は若干減少傾向にあるものの、トラックが第一当事者となる死亡事故は確実に起きています。国の5箇年計画である「第11次交通安全基本計画」の目標値(令和7年までに死者数を2,000人以下、重傷者数を22,000人以下)を達成すべく、交通事故防止の取り組みを促進する必要があるのが現状といえるでしょう。

参考:2020年の交通事故統計分析結果【 確定版 】|全日本トラック協会

トラック運転手の死亡事故・原因

トラック協会の調査では、トラック運転手の事故原因として、次のような分析結果も報告されています。

  • トラック運転手の死亡事故が一番起こりやすい時間は4:00~6:00
  • 2020年は50歳以上の割合が約50%を占めている
  • 人対車両の事故は多くが『歩行者の横断中』に発生している
  • 車両同士の事故原因は『追突(駐・停車中)』『左折時』『追突(進行中)』が多い

参考:2020年の交通事故統計分析結果【 確定版 】|全日本トラック協会

以上のことから考察すると、多くの死亡事故はトラック運転手の疲労による不注意や判断ミスが事故に影響していると考えられ、事故が起きる時間帯もここ数年変化はないため、寝不足や疲労が原因となっていることが指摘されています。

事故原因としては、運転手の安全運転義務違反(漫然運転・脇見運転・動静不注視・安全不確認)がもっとも多いため、対策を急ぐことが業界全体の責務です。

トラック運転手の事故は自己負担?自腹になるケース

※粘土は撮影用に作ったオリジナルのものです。

トラック運転手の仕事中に起きた事故の責任はドライバーにありますが、修理代や賠償金などを自腹で負担しなければいけないことがあります。免許にも傷がつき、さらには経済的な負担も背負わなければいけない事故とは、どのようなものなのでしょうか?

ケース①:過失が大きい場合

運転手の過失が大きい場合は、事故に関わった費用を負担しなければならないことがあります。たとえば、次のような場合が該当します。

  • 飲酒運転
  • スマートフォンなどの使用によるわき見運転
  • 居眠り
  • 大幅な速度超過など明らかな交通ルール違反

多くの運送会社は保険に加入していますが、保険を使うことで保険料の大幅アップが起こるため、中には保険を使いたくないという会社も存在するのです。過酷なスケジュールなど、会社側の使用者責任が問われるケースもあります。

ただし、運転手の過失の度合いが大きい場合は、自己負担を迫られるケースがあることを覚えておきましょう。

ケース②:モラル違反・法令違反が著しい場合

モラル違反・法令違反が著しい場合は、運転手が責任を問われることがほとんどです。これには、極端なあおり運転などが該当します。

近年ドライブレコーダーも普及しているため、事故前後のモラル違反・法令違反は逃げ隠れすることができません。警察の捜査などで著しい違反行為が判明した場合は、会社側に責任を負ってもらうのは難しいでしょう。

自己負担については就業規則を必ず確認しよう

運送会社では、事故が起きた際の対処方法について、就業規則に記載されていることがほとんどです。また、面接の際に応募者側から必ず確認するべき項目でもあります。

大手の場合は、よほどの過失がない限り会社側で費用を負担してくれますが、大手の運送会社ばかりではありませんので、自己防衛のために確認を忘れないでください。

ちなみに、就業規則がない会社や事故の負担はすべて運転手に……という会社には勤務してはなりません。条件の良い会社でも、勤務することは避けましょう。

トラック運転手の事故に関するウソ・ホント

トラック運転手の事故に関する情報は、さまざまな形で発信されています。実際に事故を経験してしまった人だけではなく、運送業界をよく知らない人のイメージや憶測が拡散してしまっている可能性も否めません。

これは本当なのかウソなのか…見極めが難しい方向けに、実態を紹介しましょう。

起こしたら会社はクビ?

事故を起こしてしまった際、クビになるケースとならないケースがあります。

【クビになるケース】

  • 死亡事故などを起こし警察に拘束された場合
  • 重大な過失があって事故を起こした場合
  • 免許取り消しになった場合

【クビにはならないが処分対象になるケース】

  • 一般的な事故(重大な過失がない)の場合 ⇒ 減給・降車などの処分
  • 車両を大きく破損した事故の場合 ⇒ 減給などの処分

事故による処分の大きさは、事故原因によります。運転手に重大な過失が認められる場合や、死亡事故を起こした場合などは懲戒解雇の対象になることがあるので、注意が必要です。

「保険を使わないで欲しい」と会社から言われる?

運送会社は、ほとんどが任意保険に加入しています。ただし、保険を使うことで次年度からの保険料が跳ね上がるため、少額の費用であれば、保険を使わない方が良いと判断することも少なくありません。

良心的な会社であれば、運転手に自己負担させるということはあまりありませんが、中には自己負担を迫る会社があるのも悲しい現実です。中には自賠責保険のみで、任意保険には加入していないという運送会社も存在します。

自分が勤務している会社やこれから転職しようと思っている会社は、どのような保険に加入し、万が一のときはどんな対応をするのかについても、併せて確認する必要があります。

トラック運転手がすべての責任を負う?

事故を起こしたからといって、運転手がすべての責任を負わなければいけないということはありません。通常は使用者責任として、会社も一部の責任を負うことになります。

ただし、注意したいのは免許です。免許に関しては運転手が対象となるので、免許停止・免許取り消し・罰金といった行政処分を受けることになります。賠償金や修理代などは、会社との契約内容によって運転手の負担の度合いが変わりますので注意しましょう。

事故を起こす運転手はベテラン?

トラック運転手の起こす事故の80%は、10年以上勤務しているベテランドライバーが起こしています。運転や道に慣れた頃に、事故を起こす傾向が報告されています。

慣れない頃は緊張して十分な注意力を持って運転することが多いですが、慣れてくると「」こんなものだろう」「いつも〇〇だから」といった思い込みが経験値と共に増えてくるのです。

新人運転手よりも、ベテランの運転手の方が事故を起こす確率は高くなっています。

対人事故は少ない?

トラック協会の調査結果では、車両同士の事故が50~60%、対人の事故は30~40%前後と報告されています。対人事故が少ないわけではなく、車両同士の事故に比べると少ないということです。

この調査では、自転車も車両に含まれています。左折時の巻き込みはトラックの事故でも多く見られるため、決して対人事故が少ないということではありません。

損害金を負担することはある?

損害金を負担することはあり得ます。損害金を負担することになるケースには、次のようなケースが考えられます。

  • 運転手に重大な過失があった場合
  • 会社の規模が小さく金額的な負担ができない場合
  • 就業規則で会社が負担する上限金額を超えた場合

特に、飲酒運転などの重大な過失があった場合には、会社に対する損害賠償をめぐって、裁判沙汰になることもあります。自動車保険の契約内容や、自己負担の取り決めについては、事前に確認しておくことが大切です。

事故を起こさないためにトラック運転手ができること

誰しも、事故を起こしたくて起こすわけではありません。ちょっとした気のゆるみや、疲労、だろう運転などが原因で、取り返しのつかないことになるのです。一般の人よりも多く運転をするプロの運転手として、事故を起こさないためにできることとはどのようなことなのでしょうか?

十分な休息を取る

ハンドルを握るときには、十分な休息を取ってからにしましょう。睡眠不足や疲労は、判断力・注意力を低下させます。

2019年に改正された労働基準法では、トラック運転手がしっかりとした休息を取れるよう、次のように定めています。

  • 1日の拘束時間は13時間以内が基本・延長する場合でも16時間が限度
  • 1日の休息期間は継続して8時間以上が必要
  • 1日の拘束時間を延長する回数は1週間につき2回が限度

参考:トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント|厚生労働省

長距離の運転手の方からは、ゆっくりと自宅で休むのはなかなか難しいという声を聞きますが、運行に差支えがないよう、意識した休息を取るように心がけてください。

余裕を持った運行をする

「到着時間に間に合わない!」となると、気持ちも焦ります。気持ちが焦れば、自然とスピードは上がり、信号無視や一時停止無視など、交通ルールに違反してしまうこともあるかもしれません。

できる限り、時間的に余裕を持った運行をすることも、事故防止の大切なポイントです。思わぬ渋滞や工事などで、延着しそうな場合は、会社から荷主へ連絡を入れてもらいましょう。

また、そもそも無理のある工程の仕事は、延着の可能性を最初から条件として提示することも重要です。運転手が焦っても、何も結果は変わりません。精神的に追い込まれないようにするためにも、余裕を持って運転しましょう。

慣れた道こそ十分に注意する

慣れることは作業を効率化できるため、労力や時間の面では大きなメリットがあります。しかし、慣れすぎてしまうと注意力が欠如し、思わぬ事故を起こしてしまうデメリットがあることを覚えておきましょう。

トラック運転手の事故で、10年以上の経歴を持つドライバーが80%占めているという調査結果がありましたが、これはまさに慣れからくる注意力の欠如が原因と考えられます。

慣れた道では、「だろう運転」が多くなり、「かもしれない運転」ができなくなります。慣れた道こそ十分に注意し、事故を起こさないように気を付けなければなりません。

車間距離を十分に取る

基本中の基本ですが、車間距離は十分に取りましょう。車間距離を十分に確保していれば、万が一玉突き事故の被害に遭った場合でも、前車への影響は最小限に抑えることが可能です。

普通乗用車と異なり、トラックのキャビンは鼻がないため、どうしても車間距離を詰めてしまいがちになります。意識して車間距離を十分に取るようにしないと、事故の加害者となってしまう可能性もあるため、初歩的なことですが常に意識することが大切です。

ヘッドライトは早めに点灯する

トラックに乗車しているときは、ヘッドライトは早めに点灯しましょう。JAF(一般社団法人日本自動車連盟)が推奨しているのは、日没30分前です。

道路交通法では、日没にはヘッドライトの点灯をするように義務付けられています。トラックの運転手は、スモールライトを点けているケースが多いかもしれませんが、スモールライトの点灯では、ヘッドライトの点灯とはみなされません。

大手の運送会社では昼間点灯を行っています。ヘッドライトの点灯は、周囲に自分の車両の存在を知らせる・交差点やカーブでの事故を抑止するという効果があります。できる限り早めにヘッドライトを点灯するように心がけましょう。

自分の経歴を過信しない

無事故・無違反のトラック運転手は多くいますが、自分の経歴を過信することは非常に危険です。

確かに、一般のドライバーよりは経験も多く、運転技術も高いのがトラック運転手です。しかし、絶対に事故を起こさないということはありません。

自分が注意していても、もらい事故を起こすこともありますし、予想外の動きをされて思わぬ事故につながってしまうこともあります。長年無事故・無違反の運転手でも、事故を起こす可能性は十分にあることを、認識しておくことも大切です。

まとめ

トラック運転手の事故は、決して少なくありません。一般の運転手よりも多くの時間・長い距離を運転している分、リスクは当然高くなります。

重大な過失のある事故の場合は、誰も守ってくれません。職業として車を運転するからこそ、高い意識が必要です。初心に帰って、交通ルールを徹底して守り、事故を起こさないという強い意志を持つようにしましょう。

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